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どこからなにをひきだすか。
こんにちは、言語聴覚士の池田です。
つい先日リハビリ介入が開始になった方は、久しぶりに残語(※)のある方でした。
(※重度の失語症者にみられる、何か話そうとすると決まったフレーズが出てしまうもの。その同じフレーズのイントネーションの違いで、感情や言いたいことを表現することがあります。)
元々お話好きな方でないとはいえ、お話できないことのストレスは、想像すらできないものです。
失語症とは、聴く、話す、読む、書く、のいずれのモダリティも障害されている状態ですから、他の手段でコミュニケーションを…というのも、そう簡単にはいきません。
標準失語症検査(SLTA)の結果も拝見しながら、さて、どこからやってみようか…といつものように悩みます。
もちろん、検査の結果は結果として、とても大切です。そしてもちろん、その結果をもとにして考えられる訓練内容を教科書的に導き出すことも。
それでも地域の言語聴覚士としてリハビリをするようになってからは、その方のバックグラウンド、気持ち、性格、ご家族との関係、思い出…など、いざ訓練を始める時には検査だとか評価だとか結果だとかではないところに特に目を向けるようになりました。
この失語の重症度と、発症からの期間を考えると、改善なんて到底するわけがない、ましてや生活期で ー
なんていう考えを打ち砕くように変わっていく利用者様がたくさんいらっしゃるからです。
さて、この方はというと、まだお会いして間もないですが、早速訓練中に私の目を盗んで、テーブルの上のおやつを食べています…。
私に見つかると、「あちゃー!」みたいなバツの悪い顔をしたあと、にこにこと訓練に向き直っています。
当然、改善を目的とした介入をすることに変わりはありませんが、“うまくその症状と付き合っていく”ことを提案できることも大切なのだと思っていますし、コミュニケーション面においてそれができるのが、私たち言語聴覚士。
うまくいってるな、と思うのは何も、症状が改善することだけではありませんよね。前向きな気持ちが姿勢を改め、楽しむ気持ちが次へ繋げていくのです。
この方と、そのご家族が、いまこの瞬間、私が笑顔にできるのはどんなことなのか。私が動かせる感情はどこにあるのか。
このバツの悪そうな顔だって、いいんです、まずはその場がお互いに楽しめていれば。
私たちは目の前の方の、症状だけをみてしまうことがあります。「良くしたい」の一心とはいえ、症状とその方は、別であると理解しなければいけません。
その方の機能向上と、幸せが、必ずしも同一でないということと同じように。