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ぼちぼち訪問看護 ~回想録~ その㉓ めざせ、笑顔美人!

ぼちぼち訪問看護 ~回想録~ その㉓ めざせ、笑顔美人!

こんにちは。看護部門・副管理者の大塚です。
訪問看護に携わって気が付けば20年余り・・。
「昔もあって、今も変わらないもの」「今までも、これからも大切にしたいもの」をぼちぼち綴ります。

初めてSさんにお会いした時、Sさんは長い髪の毛で顔を隠すように下を向いてうつむいたままでした。

お話をしていると時々顔を上げられますが、表情は硬く、どこか瞳はうつろで目を合わせようとされません。
Sさんは、メンタル科に通院し内服治療をされていました。
職場の人間関係のトラブルから不眠などの身体の症状が見られ、仕事を休みがちになり、やがて出勤ができなくなり退職されていました。

自宅にお伺いするようになって間もない頃の事です。
私がSさんとお話しをしていると、Sさんは自分がいつものメガネをかけ忘れていた事に気付き、
「こんなみっともない顔をお見せしてすみません。ごめんなさい。」
泣きそうな顔で、そうおっしゃいました。

夜は睡眠薬を飲んでも眠れず、明け方ようやく眠りについて目覚めるのは昼前。
最悪の気分で目覚め、起き上がることもできず布団の中で一日過ごす。
身体がだるくて、何をする気にもなれない。
そんな毎日を過ごされていました。

2週間に1度の訪問。
心の状態や出来事を書き留めておくノートを作り、数行で良いので毎日記入する事を提案し、記入していただくことになりました。

お伺いした時はノートを参考にしながら2週間の出来事をさかのぼり、心の動き・どのような時にどのような気分になったのか、思考パターンの癖などについて話し合いました。
そして、生活のリズムを整えること、体を動かすこと、食事のリズムを整えること等、まず実行できそうなことを一緒に考え毎月の目標を決めました。

ノートは2冊目となりました。
体調に波はあるものの、Sさんは進んだり戻ったりしながら、それでも時間の流れと共に少しずつ前に進んでいかれました。
長かった髪もすっきりと切りそろえ、時には柔らかな笑顔と共に玄関のドアを開けてくださいます。

時々、Sさんと視線を交わしながらの会話もできるようになりました。

薄化粧をして外出されることもあるようです。
「良い出来事も、嫌な出来事も、過去の自分も、今の自分も、それはそれで、良しとしよう。」

そうやって自分自身に折り合いをつけて、人は、生きていくのかもしれません。
Sさんは少しだけ、Sさん自身のことを好きになれたのではないかと思います。
背筋を伸ばして、胸を張って。
顔を挙げて、前を見て。
少しだけ好きになれた自分を手の中に握りしめて。

めざせ、笑顔美人!