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ぼちぼち訪問看護 ~回想録~ その㉘ 大切にされていることを、大切にしたい
こんにちは。看護部門・副管理者の大塚です。
訪問看護に携わって気が付けば20年余り・・。
「昔もあって、今も変わらないもの」「今までも、これからも大切にしたいもの」をぼちぼち綴ります。
Mさんは消化器系のご病気で、病気が分かってから1年以上、ずっと奥様と二人三脚で闘病をされてきました。口からの食事がとれない為、24時間の持続点滴は欠かせません。
先日、知的で穏やかなMさんにしては珍しく、スタッフとの電話の際に、Mさんが語気を強めたやり取りをされたと聴き私は少し気になっていました。
抗生物質の点滴の追加指示が出たため、私は久しぶりにMさんのお宅へお伺いしました。
他愛のない話の後、私が抗生物質の点滴の準備をしていた時、Mさんがぽつりぽつりとお話ししてくださいました。
「この前は、看護師さんに電話できつい事を言っちゃって、申し訳なかったよ。
僕の細かな事情なんて話していないから知らないのに、僕が急に質問したから、彼女も困っただろうに・・・。悪いことしちゃったよ。」
そして、少し間があってから、
「でもね、大塚さん。
病気で口から食事がとれなくなった今は、この毎日の栄養の点滴が僕の命をつないでいるんだ。
この点滴で、僕は生かしてもらっている。それから、看護師さんたちにもこうやって生かしてもらっている。
そして、栄養の点滴を入れることで、今の状況から少しでも良くなりたいと思っている。
だから、点滴交換の時間が過ぎても、残りの点滴を無駄にすることなく、全部入れきってしまいたかったから、そうしても良いか質問したんだよ。
そしたら、『点滴の交換の時間が来たら、新しいものに交換して、残った古い点滴は捨ててください。』ってサラッと言われてね・・・。
僕は「点滴を捨ててください」と言われた事が、「命を捨てろ」と言われたように思えて、悲しくなっちゃったんだよなぁ・・・。」
そう話されるMさんの瞳が、一瞬、潤んでいました。
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もちろん、「点滴の交換の時間には新しいものに交換し、残りは破棄する」その回答は間違っていませんでした。
だけど、私たちは訪問看護師として日々の仕事が日常的になり、絶対忘れてはいけないけれど、忘れがちになる事があります。
自宅で療養される方のお宅に伺う事に、「慣れて」しまってはいないか。
病気を抱えながら生活されることを、「よくある事」として済ましてはいないか。
今日まで、どんな思いで病気と向き合い過ごしてこられたかを、「なおざり」にしてはいないか。
今まで何を大切にされ、今、何を大切にしたいと思われているかを、「おろそか」にしてはいないか。
私たちは「日常の仕事」として行なうけれど、その出来事はご本人やご家族にとって「非日常な出来事であること」を忘れてはいないか。
日々、自分自身に問う必要があります。
利用者さんが「大切にしたい」と思われている事柄に気付くことができ、「一緒にそれを大切に思える私たち」でありたいと思います。
Mさんの話を聴いた後、私がMさんにかけた言葉は、あえて記さないでおきます。
― Mさんの話を聴いた後、あなたなら、何と言葉をかけますか? ―