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今日も元気か、笑顔はあるか
こんにちは、言語聴覚士の池田です。
さて、これはご存知の方も多いでしょう。天才といわれた言語聴覚士、遠藤尚志氏の書籍です。
2011年の秋、失語症友の会の打ち合わせ時にお会いしました。
失語症友の会や若い失語症者のつどいを立ち上げ、失語症デイサービスを立ち上げ、車椅子の方を何十人も連れて海外などあちこちへ旅をし…とにかく恐ろしいほど行動力のある、言語聴覚士のパイオニアでした。
この出会いから約1年半後、他界された時には、不思議な使命感に駆られたのを覚えています。
「今日も元気か、笑顔はあるか」とは、この遠藤氏が在宅の言語リハビリがうまくいっているかどうかを確認するために挙げた、チェック項目です。
別になにも言語聴覚士に限って必要なことではありません。理学療法士の三好春樹氏は「失語症の人の言葉が出ないのは脳の傷のせいだが、笑顔が出ないのは周りの人の働きかけが足りないせいである」と仰ったそうです。
ポイントは、「在宅のリハビリが」というところでしょう。
私が超ド級急性期病院にいたころは、失語、構音、嚥下、認知…全般について、きちんと評価を行い、その症状を可視化する働きを毎日のように行っていました。
もちろん現状の把握だけではなく、その先適切で十分なリハビリが提供されるためにも必要なことではあるのですが、評価と機能訓練の繰り返しは時に、受傷あるいは発症から間もない患者からは物を投げつけられて追い返されるほどの嫌悪感を抱かれました。
在宅とはいえ、リハビリをする訳ですからもちろん機能面の改善は望まれるところです。
しかしすでに地域に出て活躍されているセラピストの皆さんにとっては、在宅リハビリはただの機能訓練だけではないということもお気付きでしょう。
私は弊社に入職してからは1度も、標準失語症検査(SLTA)を行っていません。病院勤務時代は毎日持ち歩いていたのに……あの怪し気な黒の、鍵付きアタッシュケースを。(あとWAIS-Ⅲも。)
「障害の社会受容」という観点では、既存の評価キットは必ずしも、必要ではないのです。
知らなくていい訳ではありません。以前お話させていただいた通り、その知識は必ずベースになくてはいけないからです。
現状はきちんと把握し、必要なことを考え、できる限りの「障害の社会受容」を進めること。これまで病院で散々、いろいろな検査を受けてきた方達です。そしてその限られた世界から地域に戻ってこられた方達です。
ここでは機能面の改善は、よりよく地域社会で生きるために、その方1人ひとりの生活に沿ってなされるべきなのです。
その方の目標設定は決してセラピストの独りよがりではなく、闇雲に良くするわけではない。そのために、国家資格を携えた私たちが専門的な視点を持って、各ご家庭を訪問させていただいているのです。
リハビリの目標を伺うと、健常者からはささやかなように感じられる事もあるでしょう。
例えば「自分から挨拶できるようになりたい」、じゃぁただこんにちはが言えればいいのか。でも、そんなことではありませんよね。
それがその方にとって、どんな背景があって、地域社会での生活でどんな意味をもつのか。深めて、考えて介入することが、この先一層地域のセラピストに求められてくるところではないでしょうか。
でも難しいことを抜きにして、まずは目の前の方を笑顔にしてみませんか。
コミュニケーションをリハビリするプロである、言語聴覚士のレジェンドが言うんです。新人でも経験者でも、誰もが同じようにトライできる、普遍的項目。全てのセラピストの心に届くといいな、と思っています。