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立場逆転?
こんにちは、言語聴覚士の池田です。
先日、訪問先におじゃました時のお話です。
軽度の高次脳機能障害が残存するその方は、ADLは問題なく自立しているものの、
「話がまとまらない、前と違う」
というコミュニケーション面でのご不安をざっくりと抱えたご家族からのご希望で、訪問での言語聴覚療法が開始された方です。
そんなわけで、「娘がやりなさいって言うからね…」と初めからご本人はリハビリの必要性を感じていませんでした。
さらにこれまでの病院のリハビリで「どうしてこんな若い子たちにいろいろ指導されなければならないのか」と、例え国家資格を持っているとはいえ人生経験未熟な若者から“指導を受けなければならない”ことに、どうにも納得がいかなかったご様子。
さらにさらに「息が詰まる、悩んで苦しくなるし、暗い気持ちになる」と机上課題はお断り。
そんなこの方の目標は、社会復帰。
「前と違う」、本当に微妙なラインですよね。元のご性格や話し方などについても、元からこれです、と言われればそうなんですね、と理解できる。そんな場面には、多々遭遇します。
…さて、どこからどうしようかな…と悩みながら数度目のセッションで、その方は人の役に立ちたいと強く思っていること、折り紙のレパートリーがかなり多いことがわかりました。
デイサービスでも他の方に折り紙を教えていて、これはこんな行事に使えるし、これは何かちょっとあげるときの包み紙にもできるしね、と、利用法のアイデアも豊富にお持ちでした。
ならば私が導くのではなく、私が導いてもらおうと方向転換。
ご本人も賛成してくださり、ある日から私が通う、お話も楽しめる折り紙教室、になりました。笑
どうすれば、みんなにわかってもらえるか。みんながわかりやすいように伝えられるか。
そんな工夫をまずは一緒に考えて、私を相手に実践していただきます。そうすると、今まで見えなかった問題点が見えてきました。ご家族がもやもやしている点、きっと変わってしまったのはここだと、私も合点がいきました。
いち過程ずつ、折り進める様子がわかるように折って、紙に順に並べて貼り付けたり、折り方を文章にしてみたり。その見せ方の工夫は私も驚きました。
そして事前に用意していただいている分にもわかりにくい部分があったり、教えていただいている時にも関連する語句から違う話題が生まれたり、“こちら側”に立つことで見えてくるものの違いにも驚きました。
コミュニケーションは必ず、相手があるもの。その“相手”が感じている違和感は、相手側に立たなければわからないですよね。それを言葉通りの「相手側」に立つことで知ろうとしてはどうか。ご理解くださったご本人には心から感謝するとともに、今後の展開にわくわくしています。
ちなみに、ご担当のケアマネージャー様やデイサービスの施設長様にもご協力いただき、少しずつ、でもかなり壮大な高次脳機能のリハビリと環境調整になりつつあります…。
ご本人はまだ、ピンときていないそうですけどね。笑
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